梅雨の季節だったと思い出しました。仕事を終えてから病室を訪れた時の彼女の姿は、IVH(中心静脈栄養)のチューブが痛々しく、全身状態が思わしくないことは容易に理解できました。

私は大好きなラベンダーをブレンドした香りの小瓶を手渡しました。
「いい香り・・・この香り大好きです」
「これはね、○○ちゃんをイメージしてブレンドしたのよ」

病衣からのぞく下腿は細く、足首から先は水分やリンパ液で腫れあがった様相は、彼女に残された時間が少ないことを意味していました。そして、表情から読み取れる心の状態は「安寧」とは言いがたく、眉間には苦痛の縦じわがくっきりと寄っていたのです。

横たわっている彼女の足元に回り、ブレンドオイルでトリートメントを始めました。片足づつゆっくり優しいエフルラージュだけを、何回も何回も繰り返しました。もとのような足になってほしい、少しでも気持ち良く楽になって・・・ただ、その一心で無言でトリートメントを続けたのです。

しばらくして、ポツリと彼女が話しました。
「すごく温かくて、気持ちがいい 私もアロマの勉強したい」
「一緒に勉強しようね・・・」
私は流れる涙を彼女に知られないよう、そっとぬぐいながらトリートメントを続けました・・・。

両足のトリートメントが終る頃には、消灯時間はとうに過ぎていました。友人の足のむくみは驚くくらい軽減して、そして眉間のしわも消えていたのです。帰ろうと病室を後にしようとした時、見送るためにスリッパを履きながら、彼女が笑顔で一言 「うれしい スリッパに足が入ったよ」

それから一ヶ月後・・・彼女は願いを叶えることなく、人生の幕を静かに閉じたのです。

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